おかあさん、おなかすいた

ジャック・ザ・リッパーAssassin of "Black"

CV 丹下 桜

“黒”の陣営の「暗殺者」の英霊。
生前は連続殺人鬼シリアルキラーであった。幼い外見とは裏腹に、殺人を躊躇わない少女。

ジャック・ザ・リッパーAssassin of "Black"

1888年のロンドンで、2ヶ月間にわたって娼婦5人が相次いで殺害される事件が発生した。被害者は皆、鋭利な刃物でバラバラに切り裂かれており、特定の臓器が摘出されていた。そのため、解剖学の知識を持った医師が犯人像として浮かんだが、ついに犯人は特定できずに迷宮入り。名も顔もわからない犯人のことを、人々は「 切り裂きジャックジャック・ザ・リッパー」と呼ぶようになり、世界でもっとも有名なシリアルキラーとして伝説化していった。

真犯人であるジャックとは何者なのか。社会的地位のある医師。解体技術に長けた肉屋。お忍びで外出して殺戮を繰り返した英国女王の孫。そして、娼婦と同じ女性――。噂や伝聞、憶測は「切り裂きジャック」の概念そのものを不確かで曖昧なものにしていった。その結果、ジャックは「誰でもあって誰でもない。誰でもなくて誰でもある」という、無限の可能性を持った存在となったのである。

「聖杯大戦」において、“黒”の陣営のアサシンとして現界したジャックは、上記に挙げた犯人像のどれにも当てはまらない。自身を「わたしたち」と呼び、マスターである六導玲霞を「おかあさん」と呼び慕う少女の正体。それは、名前も与えられることなく命を摘み取られていった、幼い魂の集合体である。

「切り裂きジャック事件」が発生した当時、ロンドンの貧民街には8万人以上もの娼婦が住んでいた。そこでは、娼婦たちが堕胎手術を受けたり、生まれたばかりの赤子が下水に捨てられるなど、小さな命が日常的に切り捨てられていた。誕生することさえ拒絶された子どもたちの悲しみは寄り集まって怨霊と化し、母を求めてさまよい歩き、人知れず殺戮を繰り広げた。これが『Fate/Apocrypha』に登場する黒のアサシンの出自である。

「聖杯大戦」において、ユグドミレニアの魔術師・相良豹馬に召喚されたジャックは、生贄として捧げられた玲霞をマスターと見なした。それは、玲霞の「死にたくない」という願いに、命を摘み取られてきた自分たちの生存本能が同調したためと考えられる。それとも、玲霞の母性に触れて、ジャックの中に「母のもとに還りたい」という願いが芽生えたためだろうか。どちらにせよ、玲霞との出会いは生まれることすら許されなかったジャックにとって、「小さな救い」だったと言える。