確かに材料は揃ったが、完成には一つ足りないものがある

アヴィケブロンCaster of "black"

CV 宮本 充

ユグドミレニア一族の魔術師ロシェと契約した「魔術師」の英霊。
稀代のゴーレム使い。人間と深く関わり合うことを避けるため仮面をつけている。

アヴィケブロンCaster of "Black"

“黒”のキャスター・アヴィケブロンことソロモン・イブン・ガビーロールは、11世紀のユダヤ教徒であり、新プラトン主義の哲学者である。

古代ギリシャやアラビア、ユダヤといった学問を西方にもたらした人物で、彼の著作や叙情詩は中世ヨーロッパのルネサンス文化に大きな影響を与えた。また、ヘブライ語の「受け取る」という単語から「カバラ」という魔術基盤を生み出し、魔術史にも大きな足跡を残している。

生前のアヴィケブロンは、人が戦乱を巻き起こしてお互いに殺し合い、無力な者から略奪を行うなど、人間の醜い部分を度々目の当たりにしてきた。究極にして完全なる神が創り出したはずの人類は、何故かくも愚かで不完全なのか。それは、「純粋にして最高の原理」である神の意志から、物質的な世界へと人間がこぼれ落ちる際、段階を追って不完全になっていくためである――。その考えに至ったアヴィケブロンが、世界のすべてを煩わしく思い、無用な会話や人付き合いを避けるため仮面を身に付けるようになったのも、無理はない。

そんな彼が目指したのは、「原初の人類を創造した、神の御業の再現」だった。この世のすべての悲しみを払い、地上に楽園をもたらす存在を創る。かつて、神が原初の人類「アダム」を創造したように――。人間嫌いの厭世家であったアヴィケブロンは、彼なりに世界を、そして人類を救済しようとしていたのだ。

生前からの悲願だった究極のゴーレム「王冠・叡智の光ゴーレム・ケテルマルクト」完成のため、アヴィケブロンは自分のマスターであり、ゴーレム製造の弟子でもあったロシェを「炉心」として使用した。自身にとっての最高傑作は起動したものの、最期の瞬間まで信頼を傾けてくれたロシェを裏切ったことは、彼の心に影を落とした。かつてアヴィケブロンは「自身の利益のため、弱者を食い物にする不完全な人間」を疎み、避けたが、自分自身も同種だったのを悟ったのだろう。

王冠・叡智の光ゴーレム・ケテルマルクト」の起動後、弓術に長けたケイローンが自身を狙うことを知りながら、アヴィケブロンは“黒”の陣営の前に姿をさらした。死をも厭わぬその行動は、悲願実現のためとはいえ、ロシェを生贄に捧げたことへの贖罪だったのかもしれない。