CV 武内駿輔
ユグドミレニア一族の魔術師フィオレと契約した「弓兵」の英霊。
穏やかな知識人であると同時に、卓越した武人。
十二星座の一角に数えられる半身半馬の射手であるケイローンは、恐らく世界でもっとも有名な英雄の1人だろう。 それは神話の時代のこと。ある日、大地と農耕の神であるクロノスは、森や谷に宿る女神ピリュラーを見初めた。しかし、すでにレアーという妻があった彼は、彼女の目をあざむくために馬に姿を変え、ピリュラーと交わった。その後、身ごもった赤子を生み落としたピリュラーは愕然とした。上半身こそ普通の赤子だが、下半身は馬の怪物・ケンタウロスだったのである。嘆き悲しんだピリュラーは菩提樹に姿を変えてしまい、クロノスもケイローンを顧みることはなかった。
ケイローンは両親から愛を受けることがなかったが、粗暴なケンタウロス族としては例外的に豊かな知性と品格、そして聡明さを持ち合わせていた。そして、そんな彼は他の神々からも愛され、太陽神アポロンから音楽や医術、予言の技を。そして月と狩猟の女神であるアルテミスから狩猟を学び、ケンタウロス族の「大賢者」として成長していった。
様々な武術や学問に通じ、聡明な人格者であるケイローンを頼る者は多かった。特に彼は人を導くことに長けた優秀な「教師」であった。「十二の試練」を成し遂げた大英雄ヘラクレスや、後に双子座として昇華した英雄カストール、数々の大冒険を繰り広げた「アルゴー船」の長イアソン、「医神」と称されるアスクレピオスなど、名だたる英雄たちに教えを授け、大成させた。特に「イリアス」で活躍が語られた不死身の英雄アキレウスにとって、ケイローンは武術・学問の師であり、幼い自分を育んでくれた父であり、頼れる兄であり、そして心許せる友だった。
そんな2人は、トゥリファスの地で、敵味方に別れて戦うという数奇な運命を辿ることになった。「聖杯大戦」に勝ち抜けば、かつて捨て去ってしまった「不死性」、つまり、神である両親とのささやかな絆の証を取り戻せる。そのためには、家族も同然の存在を打ち倒さなければならない――。ケイローンとアキレウスの対決は、普通ならば悲劇としか言いようがないものである。
だが、彼らの場合は違った。ケイローンにとっては、手塩にかけて育て上げた弟子が、最大の敵として立ちはだかること。アキレウスにとっては、生前はついに叶わなかった、敬愛する師父との全力勝負。それは、彼らにとって無上の喜びだったのだ。それゆえに、2人は小細工など弄することなく、武器に頼ることさえなく、全力でぶつかり合った。その結果、ケイローンはアキレウスに破れはしたものの、正面切っての一騎打ちで敗れた彼の心は満足感で満たされていたことだろう。しかし、「大賢者」と謳われる彼がそれで終わるはずがない。彼の宝具「天蠍一射」によって、アキレウスの急所である“かかと”を狙撃。アキレウスの不死身の肉体を奪い、“黒”の陣営の仲間に希望を託したのだ。ひとりの戦士として全力で戦いながら、仲間たちにアキレウスを打倒できる道筋を示して退場する。じつに聡明なケイローンらしい最期だったのではないだろうか。