CV 古川 慎
魔術協会に雇われた魔術師により召喚された「騎兵」の英霊。
眉目秀麗な美青年。自由闊達で、マスターであれども不当な命令には従わない。
英雄叙事詩「イーリアス」にて、トロイア戦争最強の戦士と謳われているアキレウス。古今東西の神話・伝説の中でもトップクラスの駿足や、神の力を帯びていない攻撃では傷つかない不死身の肉体など、「大英雄」と呼ばれるのにふさわしい資質を持つ彼の人生は、出生の時点から異彩を放っている。
アキレウスの母である女神テティスは、愛する息子を神聖の火で炙り、人間としての血を蒸発させることで、神に等しい不死の肉体を与えようとした(河川説もあり)。しかし、人間の英雄である父ペレウスは、息子が完全に人間ではなくなってしまうことを惜しみ、テティスを説得。その結果、アキレウスは神に近い不死の存在になったものの、神聖の火で炙られなかった踵だけは人間のままで、これが唯一の弱点となった。その逸話は、現在でも踵からふくらはぎにかけての腱を「アキレス腱」と呼ぶ形で残っている。
その後、ペレウスは親友であるケンタウロスの大賢者ケイローンに、アキレウスを預けた。これまでヘラクレスをはじめとする英雄を幾人も育成してきたケイローンなら、息子を一人前の戦士として育て上げてくれると期待したのだ。当時、多感な少年期であったアキレウスは、まるで乾いた砂が水を吸うかのように、ケイローンの教えを吸収。優秀な生徒を得たケイローンも、自らが持つすべての技と知識を惜しげもなくアキレウスに伝えた。こうして共に過ごした9年間で、2人の間に強い絆と信頼関係が芽生えていった。英雄として、そして人として生きるうえで大切なことを教えてくれたケイローンは、アキレウスにとって尊敬できる教師であり、育ての親であり、頼れる兄であり、そして心許せる友だった。
だが、遙かな時を超えて、運命はアキレウスとケイローンを意外な形で再び引き合わせた。「聖杯大戦」において、アキレウスは“赤”の陣営に、ケイローンは“黒”の陣営に召喚され、敵味方に引き裂かれてしまったのである。敵陣に師の姿を認めたアキレウスが驚きのあまり絶句したのも無理はない。しかし、彼の胸に去来したのは、皮肉な運命に対する悲観ではなかった。強者との戦いを求める英雄アキレウスにとって、尊敬する師との命を賭けた戦いは、むしろ臨むところだったのだ。
とはいえ、相手は9年も同じ時を過ごした師父。こちらの手の内はすべて読まれているし、「不死の祝福」も高い神性を持つケイローンには通じない。そこで一計を案じたアキレウスは、宝具「宙駆ける星の穂先」によって決着をつけることを思い定めた。この宝具によって生み出された隔絶空間の中では、あらゆる加護や魔術、宝具に至るまで使用不能。自分と相手は身に付けた技のみで勝敗を決することになる。ケイローンさえ知らないこの宝具によって、2人は己の肉体のみを武器に相対し、激闘の末にアキレウスは勝利した。
生前、英雄として生きて英雄として死したアキレウスは、「聖杯大戦」でも英雄らしさを貫き通した。その生き方は、アキレウスの根幹をなすものだったと言えるだろう。